- Newspaper:Asahi Shimbun(E)
Date:4June,1996
Page:3
Circulation:Daily 4,439,159-
日焼け予防品
太陽の下に横たわり、日焼けする人。その上に大きなバツ印がつけてある絵が目に飛び込んできた。
遊泳注意の看板なのに、日焼け注意の呼びかけの方が目立つ。日本人にも人気のオーストラリア東海岸のゴールドコースト市では、こんな看板が砂浜の入り口ごとに立てられている。
サーフィンや水泳をする観光客らの安全を見守るマーク・ケネリーさん(三四)は、遊泳監視所から目をこらす。
「日本人は何時間も砂浜にいる。休暇が短いから少しでも長く海岸にいようとしているみたいだ。日焼けをまだ格好いいと思ってるのかな」とあきれたように話す。
ポロシャツに半ズボン。遊泳監視員は水泳着一枚だと想像していたが、我が身をまず紫外線から守る。市はサングラス、長そでシャツ、長ズボン、帽子も支給する。
◆アイデア用品色々
日焼け予防用品はどこでも手に入る。遊園地では、忘れた人のために入り口付近で売る。都市には専門店もある。
クインズランドがん基金の店には独創的な品も多い。- ほおや首、胸まで覆う布がついた帽子も二十五ドル(約二千二百円)するが、人気が高い。前面だけではなく側面からの光も防ぐようなレンズのついたサングラス(二十−三十ドル)。首筋を覆う布のついた帽子(四ドル五十セント)。運転するときに腕につける筒状の布や昔の旅人のような手の甲を覆う布(各十一ドル)。ひじとひざ近くまである水泳着(子供用・三十−五十ドル)は、遊泳監視員も着るウェットスーツに似せた形。「格好がいいから好き」と子供たちにも人気がある。
デザインも重視される。見た目を気にする十代後半の若者が、帽や長そでシャツを敬遠するためだ。南の島、ダスマニア州のがん協会は、若者に人気のあるデザイナーに服の布地に日光を通しにくい素材を使うように頼んだ。さらに、人気のラジオ局と提携して、そのブランドをつけたTシャツを作るなど工夫を凝らす。
◆日本は美容が主流
クリームには「SPF(Sun Protection Factor)15+」(携帯用百二十五グラムで四ドル)と表示されていた。SPFは太陽光線防護係数のことで紫外線を防ぐ度合いを示す。15だと素肌で一分間に浴びる量の紫外線を受けるのに、十五分間かかるという意味だ。シャツや水泳着るには50と表示されるものもある。
日本ではSPF60のクリームを見かけたが、こちらの店頭にあるのは15ばかりだ。15以上を置かない理由を尋ねると「反対に皮膚に与える刺激も心配だし、値段ほどに効果は変らない。何より、身を守る商品は安くなければいけない」と説明された。
日焼け止め中心としたサンクリームの出荷額は一九九四年には五年前の二倍の百三十五億円に増えたが、しみやそばかすをいやがる女性が主流のようで目的が違う。肌をきれいに焼くクリームも豪州ではみかけなかった。
ただ、日本でも紫外線対策への動きがでてきた。福岡県の野外用品店は、今夏、豪州から日よけ用品の輸入販売を始める。大阪市都島区の都島東保育園は、園児に首筋を覆う帽子を導入した。日本では手に入らず輸入していたが、今年からは近所の帽子屋に一つ千円で特注した。採算割れだが、「地域の子供たちのために」と作ってくれた。-保護者の要望でプールにテントで日陰をつくったりもしている。
◆予防勧め賠償回避
豪州でも紫外線予防がみんなに歓迎されているわけではない。
「今、私は戦っているんですよ」。タスマニア州の電力会社で社員を感電と紫外線から守るための安全管理を担当するスティーブ・ドウズさん(四二)は困惑した表情を浮かべた。電線保守など約三百人いる屋外作業員の一割が「夏は半ズボンで働きたい」と求めているからだ。
紫外線を防ぐため、制服は上下ども布地が厚い。ヘルメットには首筋を覆う消防士のようなカバーもつき、手袋をはめると、肌はほとんど露出しない。せめてズボンだけでも涼しくしてほしい、というのだ。
ドウズさんは「半ズボン派」を説得するため、医療機関から資料を取り寄せて紫外線の害について勉強中だ。そこまで気を使う背景には、皮膚がんになると会社に賠償を求める例が多いといった事情もある。
「連邦政府は紫外線対策を企業に義務づけている。クリーム代などは一人年間三十八ドルで合計一万ドル程度ですむ。でも、一人死亡すれば最低十三万ドルだ」とドウズさんは試算する。
オゾン層 オゾンは酸素原子三つからなる分子。成層圏にあるオゾン層は太陽から放射される有害な紫外線を吸収する役割を果たす。紫外線によってフロンガスなどが分解されて生じた塩素との反応により、オゾンは酸素分子になる。南極では、例年、オゾンが著しく減少するオゾンホールが発生している。
フロンガスは安定な物質で大気中に長期間存在する。このためモントリオール議定書の締約国会議によるオゾン層物質の規制が実行されても、オゾン減少は今世紀中は続き、来世紀の半ばまでに徐々に回復すると予想されている。
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