2000.4.11号 08:00配信


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ネパールが抱える問題

自分の力で


今回も、ネパール盲人福祉協会(以下:NAWB)の活動についてのレポートです。数多く行っている視覚障害者の自活援助活動の中から、私が実際見た事例を中心に紹介していきましょう。

Community Basad Rehabilitation Program(以下:CBR、地域におけるリハビリテーション)は、その名の通り、地方に住む視覚障害者に対するプロジェクトです。目的は、
 1.身の回りの事が自分で出来るよう、訓練する
 2.その土地にあった仕事への就業を援助する
 3.地方に多い眼病を防止する
です。都会に限らず、全国平等にサービスを提供したいという考え方があるようですね。職員は主に現地で採用、研修を行い、土地感のある人材を育成しています。

<CBR支部とスポンサー>

支部

スポンサー

カトマンドゥ

キリスト教盲人使節団(ドイツ)

カーブル

国際ヘレンケラー協会

バラ

東京ヘレンケラー協会(日本)

ダン

南アジア協議会

ロータット

世界盲人連合、社会福祉評議会

スンサリ

キリスト教盲人使節団(ドイツ)

カスキ

全国視覚障害者基金(オランダ)

カイラリィ

デンマーク盲人協会

キルティプル

国連児童基金


<98年度の活動実績>


 


 

サービス受給者数

リハビリ

日常生活訓練

2,713


 

 事業ローン

463


 

 スクーリング

147

治療

視力検査

58,551


 

 ビタミンA供給

111,825


 

 白内障手術

1,528

セミナー

自己啓発セミナー

126,013


 

 訓練セミナー

642


1.統合教育
私が見学したのは、南部の3校。そのうち2校では盲児童が共同生活するホステルが完成しており、1校が建設中でした。学校の様子は、また別の機会に詳しく報告しましょう。

学校名

ドゥマルワナ

ジュダ

シャンティ

創立

1987年

1943年

1946年

場所

ナラヤニ県
バラ郡

ナラヤニ県
ロータート郡

ルンビニ県
パンディヒ郡

総生徒数

約350名

約1,600名

約1,000名

98年度の
盲児童数

20名

16名

17名

ホステル

95年完成

99年7月完成

2000年5月完成

工事期間

8ヶ月

8ヶ月

8ヶ月

建設費用

109万ルピー
(約200万円)

90万ルピー
(約180万円)

110万ルピー
(約190万円)

収容人数

20名

20名

20名

※ルピーはそれぞれ建設当時のレートで計算しています。

授業は基本的に、健常児と一緒です。盲児童は一番前の席に座り、先生達は彼らに留意しながらも、通常どおりに授業を進めて行きます。みんなびしびし当てられているのでしょうか。見学したクラスは、結構活気付いていました。特殊教育教室もあり、新入生は、まずそこで、点字や歩行技術を学びます。リソースルームと呼ばれるその教室には、ドット付きの全国地図や大きな点字表が貼ってありました。リソースルームの先生方は優しそうな方ばかりでしたよ。
  
2.職業訓練と資金貸し付け
ロープ・カーペット作り、ろうそく作り、農業、養鶏、養牛など。訓練期間は約6ヶ月。その間の給料はNAWBから支払われます。訓練後はどこかの工場へ就職するか、自営業を始めます。その際の資金として、3,000ルピー(約5,200円)が無利子、無担保、無期限で貸し付けられます。契約手続きはごく簡単。家族立会いの下、ペラペラの契約用紙に本人が拇印を押すと、スタッフが財布から3000ルピーを出し、ぽんと手渡してました。契約場所はその辺の広場だったし。

《例:Mr. Lahar Manの場合》
Lahar Manさんは、カトマンドゥ近郊のティミに住む全盲者。
CBRに訓練を受け、ろうそく作りを学びました。

 ろうそくの作り方
  1.芯になる紐を、型に巻きつける。
  2.市場で仕入た「ろう」を流し込む
  3.10分程待ち、「ろう」が固まったら型からはすず。
  4.ナイフで整形して、出来あがり。
 材料:ろう、太紐
 道具:鉄製のハメ型、ろうを溶かすランプ、土瓶、ナイフ
 作業時間:1回約30分
 1日の生産量:1回24本×8=192本

これを、1ダース20ルピーで売りさばきます。週に1度、街へ行くそうですが、5日間で作った物が全部売れたとしても、(売値20Rsー経費15Rs)×80=400ルピー1ヶ月の利益は、1,600ルピー(約2,800円)。勿論、一般と比べると低収入ですが、自分の技術でお金を稼いでいるという自信が、彼からは感じられました。年齢は聞いていないのですが、50代でしょうか。とても明るく元気で若い娘好きな方でした。私は3度家へ遊びに行きましたが、2度セクハラに会いましたね。「手引きをして欲しい」と言うから腕を貸したらお尻を触るんですよ。ひどいでしょ。今でもご健在でしょうか、あのスケベ親父。

3.アイキャンプ
白内障手術、アイチェック、ビタミンAの供給等。私がいた頃、国際ネパール友好協議会(オランダ)から、エレナ・ヴィリグさんが、眼科助手として来ネされていました。その団体からは、4ヶ月サイクルでボランティアが派遣されます。活動地域は広範囲に渡り、エレナさんもあちらこちらを回られたそうです。

4.眼科治療センター
各地に、眼科治療室を備えたCBRセンターを建設。病院から派遣された医師が、週1回無料で検診と治療を行っています。眼病予防の為に、ビタミンA配布や予防セミナーも定期的に行っています。とはいえ、私が見学したバラCBRは、かなりがらんとしていました。診療室にあったものと言えば、診療ベット、薬棚、検眼ライト、視力検査セット、検眼鏡ぐらいでしょうかね。日本の診療室のイメージからは程遠い印象でした。

また、バラでは、フィールドワークという戸別調査を行っています。そこで出会った、2人の視覚障害者についての記録をTHKAの方から提供して頂きましたので、今回、特別に紹介しましょう。

《Mr. Amal Singh Rajput》
年齢  55歳、既婚。
家族  4人。身の回りの世話は息子が行っていた。
発症  1993年網膜障害が原因。現在は弱視。
訓練  1999年2月開始。
バラ眼科診療所にて眼疾が発見され、ビルガンジのケディア眼科病院やラクソールの病院を紹介されたが、治療不可能と診断。現在の視力は、光を感じる程度。

調査当時は、2回の歩行訓練の成果が徐々に表われてきている時でした。将来の希望は水牛飼育でしたが、順調に進んでいるといいですね。アマルさんのお家は、見るからに南部の農家っぽい、壁画付き土造住宅でした。周囲の庭と道はでこぼこしてて、歩きにくいったらありゃしない!歩行訓練の大切さを知った調査でした。

《Mr. Suman Singh Lama》
年齢 22歳、未婚。
家族 6人。 
発症 2歳の時、はしかとビタミン欠乏が原因。現在は全盲。巡回眼科講習の時にバラCBRと出会う。その後のリハビリにより、歩行などの身体能力は問題ないが、勤労意欲に欠けており、無為に過ごしている時間が多い。

ラマさんとこは、お店も併設しているレンガ造りのお家でした。記録には「勤労意欲に欠けている」とありますが、まあ、そう言わずに。本人は、町の音楽学校へ入りたいんだから。笛が得意な方で、私達にも何曲か披露してくれました。訪問調査を友達が見に来ていて、軽〜いノリでお喋りするシーンも。音楽の話になるととても楽しそうな様子でしたね。

<CBR支部が把握している視覚障害者数>

支部

人数

プログラム開始年

カトマンドゥ

619

1990

カーブル

524

1988

バラ

796

1990

ダン

175

1989

ロータット

270

1987

スンサリ

1,234

1994

カスキ

251

1997

カイラリィ

360

1998

キルティプル

125

1988


4,354


 


ネパールでは、健常者の就職さえも厳しい状況にあり、視覚障害者の就職はかなり困難です。勉強すれば教師資格も取れますが、先生になれるのは全国で年に数人。それ以外は、農業を手伝ったり、ろうそくやマット等の簡単な物を作って売るぐらい。職業訓練の計画は順調ですが、採算性を考えるとイマイチみたいです。中途障害者の場合、失明時に受けた精神的ショックから無力感にとらわれ、家に閉じこもったままの生活を送っている人も少なくありません。自分で稼ぎ、生計を立て、自分の力で生きていく。当たり前ですが、これは、私達にとっても難しいことですよね。


統計資料:中村由起子著「アジアの障害者」NAWB1998年度事業報告書より



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