丸万小学校を知っている人は少ないだろう。その地の住人か、卒業生でもない限り。大抵は道に迷うなど、何かの偶然で「出会う」事が多いだろう。
畑の中の道を走り回り、道を曲がる。ふと視界が開け、眼下にくぼ地が広がり、その中央に赤い屋根の丸万小学校がある。下見板の壁は黒くなり、遊具のペンキもはがれたそのふるい小学校を見たとき、どこかに置き忘れてきた、けれどとても大切な何かに再びめぐり合ったような気がするのだ。
思わず車を止め、その地の空気に触れる。その日が晴れの日か、曇りの日かはわからない。けれど、いつか子どもの頃に見た青空が、ちぎれたような白い雲を浮かべて、心の中に広がる。目を閉じると「懐かしい」と言う言葉が口からこぼれる。
きしむ板張りの廊下。高いペンキ塗りの天井。あけにくい体育館の重い扉。室名を書いた板の白い文字。給食室から漂う美味しそうな匂い。保健室の消毒液の匂いと、養護の先生の笑顔。授業中の静けさと、休み時間の爆発したようなにぎやかな子どもの声。
そんな原風景が、今、消えていこうとしてる。
「さみしい」と言う言葉だけでは伝えられない思いが、写真の中に閉じ込められている。この校舎が生徒たちと笑っている時間が閉じ込められている。
そこで出会うのは、今より数10センチ視線が低かった頃のあなたかもしれない。
本格的な春を前に、1日だけ、道に迷ってしまうのも良いかもしれない。
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