1996年12月1日、いよいよ南極へ向けての航海が始まった。
フリーマントル港に居並ぶ水産庁や日産のコンテナ船等の日本船が汽笛と帽フレーで見送ってくれる中しずしずと離岸した。あと南極まで20日余りの行程である。暴風圏も越え、初氷山を視認する頃いよいよ陸揚げ準備が艦内でも始まる。
一番大変な作業が、「ドーム基地」まで行く途中の内陸旅行等で使用する食糧の配布(「しらせ」からもらう。)、仕分け、レーション化であった。量もこれまた莫大な物で、私たちは13名のパーティでドームまで行くので、一日に消費する食糧が朝・昼・夕食で13*3=39これが一日分で、往復で40日かかるとして39*40=1560人/日。要するに1500人が一度に食べる量が配布されるのであるが、とにかく普通に生活を送っている人がおそらく今までの人生でお目にかかったことのないような量が(スーパーとかは別にして)ドカンと並べられる。
陸地でやっても結構大変な作業を、風浪で動揺する艦内でやるわけだから、中には作業の最中に、こみ上げてきて口を押さえてトイレに直行してしまう隊員も少なからずいた。食糧は夏期観測オペレーションに参加するグループの分も一緒に配給され、一番量が多いドーム部隊が仕分け頭みたいになって、配分作業を進めていくのだが、ここで大失敗。即席ラーメンもいろいろな種類が配給されたが、これから我々が行く所は高地で、お湯の沸点も約85℃位なのでまだそんな所で暮らしたことのない浅はかさ・・・。袋入り即席ラーメンは使い物にならないと早合点して、大量に配布された即席ラーメン約20ケースを気前よく他のパーテイーにどーんと配ってしまったのが大間違い。一度油で揚げてある「サッポロ一番」他の即席ラーメンは使い物にならないどころかドーム基地で越冬中でさえも、十分おいしくいただく事ができた。もちろん我が隊の分は持って行っていないのだから、当然手持ちは皆無でドーム基地に非常食として残されてあったのを食したのであるが、ほんとに今考えてもなんともったいないことをしたかと悔やまれる。
反対に今流行の「生麺タイプ」スパ王やラ王はまったく食えた物では無かった。これらが冷凍されると、お湯を添加した時、麺は一様にぶつぶつと1cm位に切れてしまい、腰もなくなり、ラーメンの味がするできそこないのマカロニか、たらこスパの風味がする、へんてこな物に変身し、「食わなければよかった!!」と心の底から叫びたくなる代物だった。でも最近コンビニをのぞいている時「冷凍ラ王」なる商品を発見し、「ああ、どこかで誰かが冷凍して食ってそのあまりのまずさに電話でも・・・」とおもわずにんまりとしてしまった。もちろんフイルムに「貯蔵温度常温」と明記されてあるから、メーカーの責任ではないけれど、冷凍してはいけないよ。と書いてある物を冷凍してはいけませんヨ。
「氷原のあざらし」 撮影:日立製作所 篠原 元
注意:写真はすべて国立極地研究所に属します。
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