2000.5.23号 06:00配信


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第38次南極地域観測隊 ドームふじ観測拠点越冬隊

「食と生活の記録」より/by 西村淳



「初めての凍傷」

5月も終わりに近くなったある日、バイキンマン事、林隊員担当のゾンデ打ち上げが行われた。打ち上げ作業そのものは慣れてきた性もあり順調に進み、−70℃の空間に無事大気球は飛翔していった。その時である。本山隊員が「あっ!!ほっぺたまっ白だヨー」これは凍傷初期の警告信号である。凍傷にかかると最初はむずむず、次にちょっとぽっぽっとしてきてさらに無感覚になってくる。大抵本人は気づかないので、他人に指摘されて気づくこととなる。

私は南極に来て、一度もこの凍傷にかかったことがなく、越冬に先立ち「極地研」で行われた冷感反応テスト、早く言えば氷水に指を突っ込んで皮膚の表面温度を計測するのだが、このテストでも他の人はどんどん下がっていくのに、なぜか私だけは途中から皮膚温がどんどん上がり、最終的には35℃位まで持ち直した実績があり、凍傷に関しては「俺だけはならない」と変な自信を持っていた。

当時の気温は−70℃、風力は5〜6mだったが、ドームの大自然はこんな自信をあざ笑うかのように簡単にほっぺたを凍り付かせてくれた。こうなると即ダッシュで屋内にかけもどりお湯に顔を突っ込まないと、患部が壊死、脱落とおそろしい結果が待っている。注意力は人よりかなり散漫だが、命根性は人一倍汚い性格なので、指摘された瞬間、手にした機材が何百万円かなんて事はきれいに頭から吹き飛び、その場から1秒で基地内に駆け戻った。速効で浴槽に顔を突っ込むと、顔に数千本の針を打ち込まれたような激痛が体中をかけめぐった。

これ以降−70℃を下回っている時屋外作業をするときは、今までのようなすっぴんはやめて、マスクを必ず装着する事にした。と言ってもたいそうな物ではなく、
大掃除をする時顔に巻く、タオルを一枚かぶっただけの代物だったからまだ根本的には反省していなかった。


「西平隊員の凍傷顔」


「西平隊員の凍傷防止対策」
注意:写真はすべて国立極地研究所に属します。
個人で楽しむ以外(メディア等への掲載)は禁止します。



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