2000.6.25号 06:00配信


Home


第38次南極地域観測隊 ドームふじ観測拠点越冬隊
「食と生活の記録」より/by 西村淳


「ミッドウインター終了」

最終日は宴会疲れの体を癒すべくプロジェクターによる映画館「みゆき座」のビデオ上映会が終日行われた。山盛りにしたおにぎりと卵焼きとサンドイッチをつまみつつボーッと大画面に写る「アラビアのロレンス」を眺めていた。世界で一番寒い場所で、暑さと乾きに苦しみながら砂漠を越えていくベドウイン族を見ているのはなんとなく変な物で、茶色と白の違いこそあるものの、ここも水がなく(原料はある)、生活環境は最悪で、外に裸で出ていたら、乾くか凍るかの違いはあるが、間違いなくお陀仏になってしまうのは間違いなく、なんとなく似ていることにふと気がついた。「だからどうした?」と言われたらどうもしないのだけど南極で映画のビデオを見ていると、日本と感性が切り替わってしまうせいか、普段なら見向きもしない映画がおもしろかったり、おもしろかったはずのものが全然ペケだったり・・・

例をあげると「昭和基地」で大昔から繰り返し上映されている人気作品に「赤いすずらん」がある。 私は恋愛物は苦手の部類で「他人の恋愛見てどうすんだー」派に属する。それが30次隊の時は見事これにはまった。テレビの連続ドラマでやっていた原盤のフイルムを持ち込んで、16mm映写機で上映されていたが、これが他の隊員にも人気NO1であった。 

西田佐知子扮するヒロインの悲恋物と言うか、優柔不断物と言うか どっちつかずのにやけた恋人のせいで振り回されるストーリーで、現在リメイクしたとしたら視聴率1%以上はとても無理!!と断言できる、トロイ作品だった。ヒロインのライバルがなんと「富士 真奈美おばさん」で「私っていい女でしょう・・」と主人公の石浜朗を口説きながら、ソーラン節を踊るシーンには正直ぶっ飛んだ。ともかくこの略称「あかすず」は長らく「昭和基地越冬隊」の人気NO1の座を譲らなかった。 

ドーム人気NOIの映画は「天使にラブソングを2」、テレビ録画物は「ロングバケーション」だった。あまり深く考えず、最後は目出度しパターンが越冬隊好みのようである。ワーストNO1それもダントツだったのは完璧にジョーズのぱくりだと分かる東映の怪作「恐竜怪鳥の伝説」だった。富士山の樹海で道に迷った女性のハイカーが洞窟で恐竜の卵を発見。 工事現場に迷い出て病院に収容されるがなぜか死んでしま
うプロローグから????マークの作品だった。 よみがえったブレシオザウルスが草食のはずなのに人や馬を喰ったり、15cm位のランフォリンクスがラドンのごとく空を飛ぶ大怪獣として空を飛び回ったり、生物調査の科学者役のヒロインが、室内に迷い込んできた青大将を見て大騒ぎをしたり七転八倒・支離滅裂とにかくそうとう凄まじい作品だった。こういう物を見ると、瞬間的に夢の世界に旅立つ習性を持っている私は結局どんな作品かよくわからなかった。

目覚めてみると、観客0の状況が重なり、私が社主をしていた映画館「みゆき座」はこの作品一本で倒産の危機に陥った。この作品については何度となく意見が飛び交い、「もしかしたらあれほど凄まじい映画を作った監督はとんでもない大物かもしれない。」との声まで挙がった。平沢隊員は「日本に帰ったらこの監督を探し当ててなぜこんな作品を受けたのか?しかもどういう意図で作ったのか、ぜひ聞いてみたい。」と言っていたがその後どうしたのだろうか・・・。南極の小さな基地でエイリアンが隊員の体に次から次に乗り移り、がんがん殺しまくるカーペンター監督の傑作「遊星からの物体X」はあまりにもその設定が自分たちの境遇に
そっくりなこともあり、リバイバル上映はされなかった。

えらそうに講釈をたれているが、結局越冬中に真面目に見たビデオは前ふりとして上映される「21世紀に残したい歌」の岡本真夜だけだったような気が
する。ともかく一週間続いた「ミッドウインター祭」も映画祭で幕を閉じ、いよいよ明日からは越冬後半戦が始まる事となった。

「ドーム基地映画館  みゆき座」

注意:写真はすべて国立極地研究所に属します。
個人で楽しむ以外(メディア等への掲載)は禁止します。



あなたのご意見やご感想を掲示板に書き込んでください。

indexbacknext掲示板

Home
(C) 1999 Webnews
ご意見・ご感想・お問い合わせは webmaster@webnews.gr.jp まで。