1999.10.10号 20:30配信


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「酒と文化と、そして語り合い…」
富田通信第145号(99.10.10)より転載

平成11年10月10日 発行人:富田富男

●地酒文化と地・酒文化

 10月に入り、朝の最低気温が10度前後とめっきり涼しくなりました。ついこの前までTシャツを着ていたのに、今は長袖の上にジャンパーを着ています。裏庭のザクロの実が赤く色づき、モミジの先端の葉も赤く染まり始めました。季節の変わりは本当に早いですね。
 ところで今月の初め、東京の篠田次郎さん(吟醸酒研究機構世話人頭、吟醸酒への招待・中公新書等著書多数)から電話がありました。相変わらずお元気そうなお声で一時間ばかりいろんなことをお教えくださいましたが、その中で「地酒文化」と「地・酒文化」という大変おもしろいお話を伺いました。
 今回の富田通信はそのときのお話を私なりに解釈して皆さんにご紹介してみたいと思います。


地酒文化と地・酒文化

 電話の中で篠田さんは「いいかぁ、よく聞け。これから難しい話をするからな」と前置きしてから「この25年間は地酒文化の時代だったが、これからは地・酒文化の時代だ」と話し始めました。
 頭の回転の鈍い私はなにを言わんとしているのかピンとこず、「地・酒文化って、その土地の地酒の文化ですか?」って聞いたんですよ。
 そしたら篠田さんは「いや、地・酒文化っていうのは、東京だったら東京の、新庄だったら新庄の、つまりその土地の酒文化だ」というんです。
 篠田さんの話を要約すると「昭和50年頃まで日本酒は右肩上がりに生産量を伸ばしてきたがその頃をピークに生産量は減少に転じた。それを救ったのが吟醸酒に代表される地酒である。吟醸酒のおいしさにすっかり魅了されたごく一部の酒屋、料飲店、マニアたちは身銭を切ってまで吟醸酒の宣伝、発掘につとめ、その結果地酒文化が花開いた。
 いまや、酒の小売店の店頭には全国各地の吟醸酒が並び、各種試飲会では各地の有名吟醸酒を飲むことができる。それはそれで大変喜ばしいことなのかもしれないが、ともすると吟醸酒を集めさえすれば、商売や試飲会が成功するという風潮が蔓延してしまった。
 しかし、こうした吟醸酒の持っている力にだけ頼ったやり方は、もうそろそろ限界にきている。これからは、その土地土地で酒の文化を深めていかなければならない。そうすることによって、吟醸酒をより深く味わうことができる。そのためには、各地で酒学校を立ち上げなければならない。お前はまだやってないようだけどな」という話でした。
 酒学校の話はひとまず置いておくことにして(エヘヘ、なにごとにもぐうたらで、山の稜線に沈む夕日を見ただけで無上の幸せを感じてしまう私としては、学校と聞いただけでしり込みしてしまうんですよね。・・・ゴメン)、篠田さんの話は、いつも私に大きな指針を与えてくれます。
 確かに、私たちは吟醸酒のおいしさに感動し、その感動をみんなに広め、そして素晴らしい吟醸酒を発掘し育ててきました。その活動は今後もずうっと続けていかなければならないのはもちろんですが、それと並行して吟醸酒を味わう私たち自身の文化をも育てていかなければならないんですよね。
 まさに車の両輪ですね。残念ながら今はこの両輪の釣り合いがとれていないのでしょう。だからこそ、一部の不心得な人たちが「この酒、うちでしかないよ」などと、酒の良否よりも希少性を重視した商売がまかり通るのでしょうね。
 むかし読んだ本の中に、酒の味わいは、その人の経験・知識、つまりはその人の歩んできた人生によって決まるという意味のことが書いてあったのを思い出しました。
 うーん、酒の学校かぁ・・・。こうなったら誰か講師になってくれる人を探さなくっちゃ。・・・乾杯

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編集後記
○9月14日、山形県の母なる川・最上川でカヌーをやってきました。カヌーといっても転覆の心配がほとんどないカナディアンカヌーです。当日はあいにくの小雨でしたが、ゆったりと水面を滑るカヌーを漕ぎながら、複雑に水流がからみあい流れていく川面や両岸の景色を眺めているうちに何ともいえない開放感に包まれていました。今度はぜひ子供と一緒に乗ろうと思っています。
○9月21日、山形県工業技術センターで開かれた山形県下の造り酒屋さんの勉強会で講師を務めてきました。テーマは「小売店から見た山形酒に不足しているもの」。持ち時間40分でその後1時間のパネルディスカッションです。
 どうひいき目に見ても講師という柄じゃなく、だいいち人前で喋るのが大の苦手の私としては、40分もの時間をどうしようかと心配でしたが、案ずるより産むが易し、まあ、何とかなりました。
 その夜は、蔵元さんとの懇親会。じつはこの懇親会で出る蔵元自慢の酒目当てに講師を引き受けた私としては、・・・この後のことは品性を疑われるといけませんので今回はここまで。

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商品紹介
上喜元・純米酒「山田錦」
 酒田市にある上喜元(酒田酒造株式会社)さんの純米酒「山田錦」は、淡麗辛口酒が全盛の中にあって、ひと味もふた味も違う味のたっぷり乗った旨口の純米酒です。これからの秋の夜長、じっくりと味わうにふさわしいお酒です。
             山田錦70%精米  1.8L 2800円(税別)

上喜元・特別純米酒「雄町」
 春にこの酒ができあがったときには失敗作だと思ったそうです。この酒を仕込むためにわざわざ熊本県まで酵母をもらいにいったのに、できあがった酒は酸が多くて酸っぱくて飲めなかったんだそうです。
 それが夏を蔵で越したら酸が丸くなってとってもおいしい酒になりました。この前、蔵に遊びに行ったときこの酒を飲ませてもらってあまりのおいしさに「来年もこの酒を造るの?」と聞いたら、蔵元は苦笑しながらも「仕込みの経過表があるからな」といっていました。
 来年以降はどうなるかはわかりませんが、ともかくも偶然が産み出したこの酒、ぜひ味わってみてください。
              雄町60%精米  1.8L 2850円(税別)
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本の紹介
まんが「味よし酒よし人もよし」PART2

 この9月に、高瀬斉さんの日本酒応援まんが「味よし酒よし人もよしPART2」が刊行されました。
 蔵元の似顔絵や酒の辛口批評には、思わずニヤリとさせられます。、それに酒に合う料理なども載っていてとても面白いですよ。
 当店にも高瀬さんのサイン入りの本がございますのでよろしければお買い求めください。
       1100円(税別)

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「富田通信」
URL http://shinjo.dewa.or.jp/tomita/
E-mail:tomita@mail6.dewa.or.jp
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