日本の神々の酒
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
去年の12月中旬は10日以上も毎日雪が降り続き、積雪も70センチぐらいになり、あわてて倉庫の屋根の雪を下ろしました。「こりゃ、この冬は大雪になるぞ」と思って12月中の屋根の全面雪下ろしを覚悟していたら、予想に反して年末から今まで、雪らしい雪が降っていません。あれほど屋根に積もっていた雪もほとんど消えてしまいました。この原稿を書いている今も解けた雪が雨だれとなって音を立てています。新春とはいえ、ほんとうに春のようです。
さてと、2000年代最初を飾る富田通信は、日本の神々に敬意を表して、神話に出てくる酒の話と参りましょう。
八塩折之酒(やしおりのさけ)
『古事記』や『日本書紀』の中で最初に現われる酒がこの八塩折之酒です。スサノオノミコトがヤマタノオロチを退治したときに、オロチに飲ませたあの酒です。
では、いったいこの八塩折之酒とはどんな酒だったのでしょうか。八塩折之酒の「八」は八百屋などと同じ使われ方で、たくさんとか多くをあらわす日本の聖数で、「しお」は熟成もろみを搾った汁、「おり」は何度も折り返すという意味です。ですから、八塩折之酒とは、いったん酒を造り、粕を取り除いた搾り汁(酒)にまた原料を入れ、酒を造り、また粕を取り除き、その搾り汁にさらに原料を入れ、酒を造り、・・・といったことを何度も繰り返した酒です。
それではその原料とは何だったのでしょうか。『日本書紀』に「衆菓(もろもろのこのみ)を以て、酒八甕(かめ)を醸すべし」とありますから、その原料は米でないことは確かなのですが、どんな木の実や果実であったかは未だに謎のままです。
さてさて、ヤマタノオロチが飲んだ八塩折之酒とはいったいどんな味だったのでしょうね。すっかり酔ってしまうほどに飲んだんですから美味だったんでしょうかね。想像するに、酒で酒を仕込むわけですからアルコール発酵が途中で止まり、糖化だけが進んで、相当に味の濃い、甘い酒だったのではないかと思います。
いずれにしても、一度飲んでみたいものです。
天甜酒(あまのたむざけ)
日本で一番最初に米で酒を造ったのはコノハナサクヤ姫(別名カムアダカシツ姫)とされています。『日本書紀』に「狭名田(さなだ)」の「田の稲を以て、天甜酒を醸(か)みて嘗(にいなえ)す、又淳浪田(ぬなた)の稲を用て、飯(いい)を為(かし)きて嘗す」と記されています。
天甜酒の「天」は天上界とか神の世界を意味し、「甜酒」は美味い酒という意味ですから、天甜酒は天の美酒という意味です。なお、蛇足ながら「狭名田」とは神稲を作るために占いで決めた田、「淳浪田」とは水田のことです。
通説では、この天甜酒は米を口で噛んで唾液の中の酵素を利用したいわゆる「口かみ酒」ということになっていますが、それは間違いです。古事記や日本書紀、風土記、『万葉集』などでは、酒を造ることをカム・カミといい、「醸」の字を当てています。前述の誤解はこのカムを「噛」、つまり食べ物を咀嚼するという意味に取ってしまったために起こりました。カム・カミの語源はほんとうはカビに由来するもので、麹と深い関わりがありました。
コノハナサクヤ姫が新嘗の神祭のために造った天甜酒は、明らかに米を原料とし、しかも、米麹を利用した酒でした。
では、どんな酒だったのでしょうか。米麹による糖化作用と野生酵母によるアルコール発酵がうまくいったとしても、おそらく、今日の甘酒よりは酸味の多い、アルコール度数の低い濁酒のような酒だったのではないでしょうか。
まあ、私としては、うら若き巫女さんが口で噛んで醸したという通説の方の天甜酒を一度飲んでみたいと思うのではありますが・・・。エヘ。
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