海は母、流氷は友
冬、オホーツク海は荒れ狂いながら冷えていきます。海中に小さな氷の結晶が生まれ、ゆらゆらと舞い上がります。流氷の赤ん坊−氷晶−です。氷晶の群は、絡み合って海面を覆い、さざ波が消えていきます。軟らかい氷の膜は、やがて、薄い氷の板へ成長します。うねりで氷板が割れます。ぶつかり合って角を削られた円盤状の はす葉氷が揺らぎます。はす葉氷 の隙間もやがて凍り、青い海は白い海へと変わります。氷野と氷野の激突、起伏の激しい荒野が生まれます。延々と続く氷の山脈が走ります。オホーツク海に静寂の時が流れます。 春一番に氷野に亀裂が走り、青い海が顔を出します。流氷の群が去っていきます。沖に氷海の蜃気楼−幻氷−が揺らぎ、オホーツク海は海明けの季節を迎えます。白い海は豊かな青い海へ還ります。浜に活気が戻ります。 流氷、それは海からの素晴らしい贈りものです。
あとがき
冬には、流氷の到来を待ちわび、春には、流氷に別れを告げる。流氷を暦に30余年が過ぎました。研究対象であるはずの流氷に、いまや私のこころは捉えられてしまいました。流氷の世界は、私を輪廻転生の想いへ誘います。 流氷の海は、疲れ切ったこころに安らぎを与えてくれます。物質至上主義に走った人間に何かを考えさせてくれる不思議な力を秘めています。 これまでにも凍る海や流氷の存在の科学的意味や流氷への想いを語り、書き散らしてきました。皆さまにも流氷の海を知っていただきたい。パソコンなんかはほったらかして北の海へ来ていただきたいとの願いから、さいはてオホーツク海の海辺から雑文をお送りします。
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