まえがき
前回、アムール川の早生まれの流氷は、サハリン湾周辺の定着氷として、自縄自縛の状態で冬を越すことをお話しました。つまり、アムール川からの冬の使者説を否定しました。 早速、読者の方から それじゃどこから? というご質問をいただきました。 今回はそれへの返答です。猛暑の折、お気持ちだけでも流氷で涼をおとりください。
北海道で眺められる流氷は 舶来ものか地場産か
冬になると、「もう流氷は来ましたか」とか「この流氷はどこから来たのですか」などとと尋ねられる。我が流氷キャンペーンも、今一つだなーと思わされる。 これには、毎年冬がくると「アムール川から冬の使者・流氷がやって来ました」という名文句を繰り返すマスコミにも責任の一端があろう。人々は「流氷はやって来るもの」と洗脳されたようだ。が、この「アムール川・冬の使者説、アムール川河口に放流したブイが、冬早々にカラフト北方の海岸に凍り付いた事実から、否定されてしまった。
だが、どこから来るのかという問題はまだ消えていない。気象衛星による流氷分布図を連続的に見てみよう。12月上旬、オホーツク海北部・カラフト東岸に姿を現した氷域は、次第に南に広がっていく。正月頃、氷域の先端はカラフトの南部に達し、北海道に接近する様子を示す。この氷域の広がり方を見る限り、たしかに北方の流氷が南へ向かって移動してくるように見える。 ところが、1月下旬には、すでに北海道沿岸の海水も結氷温度(マイナス11.8度)まで冷えており、流氷誕生の条件を備えている。はたして北海道沿岸の流氷は、国産品なのかそれとも舶来品なのだろうか。
アムール川河口の流氷の漂流調査後の、1994年1月上旬、今度はカラフト北部のオホーツク海側の2カ所の氷野に上にブイを載せ衛星で追跡した。 流氷は北風に乗って、毎秒30数センチメートル、すなわち、風速の2〜3%の速さで南へ漂流した。 1月下旬、2台ともカラフト南端の東側を通過、その後、1台は氷野を脱出して東へ去ったが、もう1台はさらに南下を続け北海道に接近した。2月1日、氷板に乗ったまま漂流中のブイが、砕氷巡視船“そうや”によって奇跡的に発見された。ブイを乗せた氷板の周りは、薄い新生氷で囲まれていた。このブイは、さらに南下して知床半島の北を通って、2月中旬、ついにクナシリ島に漂着した。 オホーツク海の流氷を追った2000キロの旅。カラフト北部東岸で生まれ、海岸沿いに南下したロシア生まれの舶来氷と北海道沖生まれの国産氷は一緒になって、北海道沖の美しい氷野をつくりだしていることも明かになったのである。
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