織物の素材として一般的に使われているのは、ウールや木綿、麻などの糸がほとんどです。使われる糸の持つ性質によって、織り上がった布や作品はずいぶん違った表情をみせます。ウールならば暖かさや柔らかさを、木綿や麻ならばさらさらとした涼しさを、手で触ってみた感覚とともに、見た印象からも感じることができると思います。
この「手触り」が、織物をつくるときにはとても大切な要素のひとつになっています。
私達が手で触った時に感じる、ざらざらしているとか、つるつるしている、柔らかいと
いったような感触が、「触覚的」にも「視覚的」にも伝わることが、表現することの第1歩だといえるでしょう。
例えば、マフラーを作るときに、始めに「赤いマフラーが欲しい」という色彩からイメージがふくらんでいくことも多いと思います。そんな時には、次にどんな手触りのマフラーにしたいのか、ということを考えて糸を選んでいきます。太い糸でザクザクした感じがいいかなとか、細くて柔らかい糸でフワフワした軽い感じがいいな、という風に。
そんな風に素材としての糸の太さを変えることによっても、同じ赤いマフラーのできあがりの感触はずいぶん違ったものになってきます。
私の最近の作品づくりのなかでは、ペーパーヤーン(紙ひも)を主に使っています。
紙の持つ自然な感触と、カサカサという紙のこすれあう時の音が好きで、この素材を使って自分の中にある自然の風景と空気感のようなものを表現したいと思っているからです。「触覚的」に、あるいは「視覚的」に私達の心に何かの「感触」を残すようなものができればと思っています。
織物の素材としては、いわゆる糸と呼ばれるものだけではなく、紙ひもや金属(針金)、グラスファイバーなどは経糸として使用できますし、織り込むのであれば写真のフィルムやアクリル素材、木の枝など、ほとんどの素材を試すことができます。
ものをつくるとき、それが芸術的な作品であれ、実用的なマフラーであれ、素材の持つ性質や魅力を少しでも多く引き出すことができるように、「質感」や「手触り」を大切にして、今日も素材と語らいつつ・・奮闘中です。
佐藤 千織 29/01/00
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