2000.8.10号 06:00配信


めっちゃ田舎のお菓子屋さんの独り言


by 高砂屋菓子舗の渡邊

◆甘いものがあると、安心する

さてさて、自分の生い立ちばかり書いていてもつまらないですよね。今回は、自分が菓子屋としての心掛けを変えてくれた言葉の事を書きたいと思います。

それは、阪神大震災の翌年の1月に神戸に行く機会があったのです。1月は、菓子屋にとっては忙しい時期でしたがその機会を逃してはいけないと思い、店を家族に任せて行くことにしました。

福岡と神戸に約1週間の予定で研修も兼ねて行ってきたのです。まあ、北海道から出たのは修学旅行と新婚旅行の2回くらいしかないものですから、北海道との気候の違いとか食べ物の違いなどがあり面白い旅が出来ました。1月だったのですが、九州だから雪もないし気候の暖かいのだろうと思っていたのですが、行った次の日は福岡でも記録的な大雪だったのです。

寒かったですよー。泊まったところがエアコンしかなくて、寒いのですよね。ストーブに慣れている自分としては、風邪引きそうになっちゃいました。でも、やっぱりそこは福岡ですよね。昼にはすっかり雪もなくなって・・・

その旅では、地元のお菓子屋を見学できる機会があったのですがもうカルチャーショックというか、店のオーナーシェフさんの考え方などが自分の考えていることとほど遠いと言う事を知らされました。もう頭、ハンマーで殴られたような気がしましたよ。なりより、その店のオーナーシェフが言われたことは、「お客様の望むものをいかに察知にて、そのものを提供できるか?」ということでした。

その頃の自分は、「ご飯は食べないと死んでしまうが、お菓子は喫好品で贅沢なもの・・・。ならばその贅沢なものをどうやって売ろうか?ともすればいつわりのものでも、売ったほうが勝ち」というような考えだったからです。

それから、神戸に行ったのですがそこのお店に行ったときは、ダメ押しのアッパーカットを食らいました。その神戸のお店の製造主任の方からこういう話を聞いたのです。

震災のあった次の日にだったのですが、電気もガスもないけど店舗にあまり被害がなかったのでとりあえず開店したらしいのです。そこへ、被災された方がお客様で来店されたそうです。そこで、その主任さんは「家もなにもなくなってしまわれたのに、わざわざ来店してくださいまして、本当にありがとうございます。」とそのお客様に、声をかけたのですが、お客様は「(家も)なにもなくなってしまって、ドラム缶で暖を取っているけど、甘いものがあると安心するのよ」と言われたそうです。その言葉を聞いたときに、自分はなんという心掛けでお菓子を作っていたのだろうと愕然としたのです。

必要とされていないと思っているお菓子を作るより、必要とされていると思って作るお菓子とでは、見た目は同じでも全然違うお菓子が出来上がると思うのです。「ご飯は、お腹を満たすけれど、お菓子は心を満たす」ということに、気が付いていなかったのですね・・・

分かっていないといけないはずの事を、一番分かってなかったのです。


インデックス掲示板全国菓子工業組合連合会青年部




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