2000.1.11号 20:00配信


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第38次南極地域観測隊 ドームふじ観測拠点越冬隊

「食と生活の記録」より/by 西村淳



「憂鬱な書類仕事」

夏も過ぎ、膚に感じる風もさわやかな10月いよいよ南極へ持っていく食糧の「しらせ」への積載作業が開始される。各部門別にそれぞれ日取りが決められ、順序よく進められて行くわけだがその時期には、どちらかといえばのどかな雰囲気だった隊員室も公式文書として提出しなければならない、「積み荷リスト」や「貨物入庫報告書」の仕上げに追われ、にわかに殺気立ってくる。

この書類は実に細かく細分化され、A3の書類に番号・品目・梱数・荷姿冷凍、冷蔵庫、冷房庫どれかへの行き先段ボールの寸法・立法と今見返してもぞっとするくらい、これを考えた奴は会計業務一筋に生きてきて、そのあまりの細かさに、250人位の女に振られ、その報復として、南極観測隊の統計業務にボランテイアで参加している奴だ!!と断言できる位、重箱のすみどころか車の掃除を絵筆でやるみたいに、細かく細かく規定されている。普通にやっても「早く終われー!」と叫びたくなる様な作業を、今回2回も繰り返す羽目になった。

その原因はパソコン・・
38次隊に参加するまで、パソコンという機械にまったく触れることなく、平和に過ごしてきたおじさんが、調達作業に関わったとき最初に味わったカルチャーショックがこれであった。ソフトなる物が入っていなければ、ワープロも何もかも起動しないということすらわからない超初心者だった私は、友人から観測隊に来る前、NECの500MBのマシンを購入し、これで時代の最先端とばかり、意気揚々と隊員室に現れたわけだが、どうも自分の機械と他人のものが、最初にスイッチONした時の画面が違うことにある日気が付いた。今考えると、WINDOWS3.1と95の違いなのだが、「俺の機械は壊れているんじゃないか」と疑心暗鬼の毎日を送っていたのだが、それを救ってくれたのが、NECから参加していた「菅原隊員」であった。まあそれはそれは事細かに、幼稚園の園児でもシステムエンジニアになれるくらい丁寧に、丁寧にご教授してくれた。「聞くは一時の恥、聞かなくても一時の恥」を座右の銘にする私はまわりを見渡すと、東大・京大・名大・電通大・高専・北大・筑波大・室蘭工大と受験戦争を勝ち抜いた私よりほんの少し頭のいい人が、ごしゃまんと存在することに気づき、何でも聞きゃいいんだー。とばかり「上書き?挿入?保存?なんだそりゃー」と生きている、わかりやすいマニュアルに質問しまくり、どうにかこうにか一太郎は上辺だけマスターできた。が、しかし、今回の提出書類は慣れ親しんだ?というかそれしか知らないと言うか、一太郎ではなく、「ロータス1.2.3」と聞き慣れない名前のものを使うとのこと。

もちろん例の「何じゃそりゃー」だが、まあとにかく数字を打ち込めば自動的に計算してくれる、それはそれは便利な代物だとか・・・。なんとかかんとか880項目打ち込んで、締め切り1日前にUPしたのだが、ダブった品名があることに気づきなんとかこれを消してやりましょ・・とよけいな事を考えたのが命取り。そこだけドラッグしたつもりが、なんだか全体が青い背景で彩られた。ここで一太郎では削除!で問題解決と行くのだが、なんとEnterを押すと、全体が消えてしまった。きれいさっぱり真っ白である。まあここでも大したことないと考えて「なんだか消えたけどどこ押せば戻るんだべ」と菅原隊員に御質問。「バックアップから起こし直せばいいですヨ」との答えに「バックアップ? なにそれ???」かくしてその日から2日間の徹夜作業を送ることになった。まあ何とかかんとか、息も絶え々・半死半生で書類も提出でき、無事に「しらせ」に搬入できる日を迎えた。日通マンのプロの仕事に驚嘆し、昭和の分と合わせて約40トンの食糧も手際よく艦内に収納され、11月14日の出港日を待つばかりとなった。


「昭和基地」のオーロラ/撮影:山梨大学「竹内 智」
注意:写真はすべて国立極地研究所に属します。
個人で楽しむ以外(メディア等への掲載)は禁止します。



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