2000.3.8号 08:00配信


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第38次南極地域観測隊 ドームふじ観測拠点越冬隊

「食と生活の記録」より/by 西村淳



「作業開始」

翌朝はみんな少し寝坊して、37次の藤井隊長手製の朝食で始まった。基地内放送でZARDの「揺れる思い」が一斉に響きわたり一日がスタートした。この曲は以後38次隊でも、食事やパーテイーの時などに一年間使用され、この曲を聴くと自然に腹が空いてくる・・・馴らされた?隊員も少なからずいた。温かい味噌汁・卵焼き・海苔・ほっけ味醂漬けのこもった朝食を食べ終わると、本日の作業のスケージュールが発表された。37次隊は帰国準備、2500m分掘り下げた氷が50cmずつにカットされケースに梱包されている「コア」と呼ばれているサンプルの、雪洞よりの掘り出し及び橇積みの準備。38次隊は基地持ち込みの物資搬入準備と、今回新たにもう一棟建築する予定の「観測小屋」の基礎工事と盛りだくさんのメニューである。

従来南極観測隊の隊通しの越冬交代に関しては、文書でこそ明記されていないものの、昭和基地ではかなり厳密に行われていて、前次隊は1月31日までは昭和基地にとどまり、新しく来た隊は昭和基地から1km程離れた2階建ての「夏宿」別名「Lake Side HOTEL」と呼称されている建物に入る。「しらせ」がいる間は食事・風呂・生活全般のサポートは自衛隊が運用し、観測隊員はおもに建築作業という「土方仕事」にかり出され、残業手当のいっさい出ない残業の嵐の中、連日夜遅くまでこき使われる。その間まもなく帰国する隊は、楽しそうに荷物の整理・基地引き渡しの準備等をいそいそと(これからここに残される隊にとってはそう見える)進め、一年間の越冬を控えた身にとって、出るのはため息だけと・・・

昭和基地にはウォシュレット付きの立派な水洗トイレやサウナ付きの温泉並の風呂場があり、その辺のスナック等はぶっ飛びそうな、ビリヤードや、からおけも完備されたBARがある。隊の好意でBAR等は、臨時営業で新しい隊や自衛隊を迎えてくれるのだが、中には相性の悪い隊というのもあって、その時はBAR使用はもちろん、トイレ等も丘を越えて、夏宿まで戻らなければならないということになる。これが2月1日を境に基地引き渡しが行われ、なにからなにまで(BARの名前まで)新しい隊の物に変わってしまう。

前回昭和基地で越冬を行った時、どれだけ2月1日を待ちこがれたことか・・。まあその辺のことはさておき、ここ辺境のドーム基地では全部あわせても現在の人数は17名。好きも嫌いも言っていられない。新旧とりまぜて何日間か一緒に暮らしていくことになる。私も早速今日の昼飯から、食事当番に入ろうと作業の前に、前次隊の備蓄食糧を調べに、福田ドクターと一緒にまずは雪洞内にある冷凍食品(全部冷凍食品だが・・)の保管スペースに降りて行った。ここは昨日落盤のあった雪洞の隣でなんと越冬中に一度落盤がおきているとか。冷凍野菜を中心に色々あったが、崩落の後も生々しい雪塊がごろごろしている中なぜか天井を支えている形で納豆の段ボールが6〜7個積み上げてあった。「面倒な事は少しでも先送りにしよう」早く言えば怠け者というのだろうか。このいい性格がこのときはもろに出て「このあたりの問題は越冬が軌道に乗ってからにしよう!!!」と0.1秒で結論を出して、早々に雪洞から退去し、次は冷蔵室&冷凍室に向かった。冷蔵庫は食堂のすぐ横の通路を改造して、棚をしつらえて造ってあった。奥には換気扇があったが、これは屋内の空気を排出するのではなく屋内の温度が上がりすぎた時に、屋外の冷気を取り入れて冷蔵室内を冷やすために配線が逆にされ、サーモスタットが+2℃にセットしてあった。入り口には厚手のプラスティック製カーテンがぶらさがり、庫内温度が下がりすぎた時に、これを開けて温度を上げるという仕掛け。 単純ながらなかなか合理的な設定で、一年を通じてほぼ一定の適温を保ってくれた。

次に冷凍庫へ。これはスペース的には世界一といっても過言ではない広さである。外に置けばの話だがなにせ暖房が通っていない所はどこでも平均ー56℃なのだから・・・。この時の冷凍室は入り口脇の暖房の通っていないスペースに、ただ冷凍庫用の分厚い扉がついているだけの物だったが、ここも一年間で最高ー34℃。最低ー75℃と冷凍庫としては、必要にして十分な環境を保ってくれた。肉類はほぼ使い切った状態だったが、前任者があまり魚類を好きでなかったのか、魚は小鯛・鰺・カレイをはじめ様々の物がごっそりと残っていた。この時の心情はほんとにうれしいもので、ボーナスの日に、宝くじが当たった様な、ほんとに得した気分になる。もちろん2〜3年前の物でも品質の変化無し。越冬中6月位までは37次隊の残していった魚類で十分に間に合った。 

今回は基地内に日本から持ち込んだ10トンあまりの食料をどう搬入するかという下見もあったが、雪洞はあの落盤の状態をみるとどうしても使う気になれず、冷蔵室や冷凍室の完成されたスペースは限られていて、新しく持ってきた食糧をここに納めるはどうしても無理・・・・幸い「昭和基地」のように屋外に放置していても砂をかぶる心配はないし、冷凍品が溶けてくる事もない。これも「このあたりの問題は越冬が軌道に乗ってからにしよう!!!」ということにした。 




注意:写真はすべて国立極地研究所に属します。
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