2000.3.16号 07:30配信


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第38次南極地域観測隊 ドームふじ観測拠点越冬隊

「食と生活の記録」より/by 西村淳



「最初の宴会2」

「今日は鮟鱇鍋だよー」 
「えっあんこなべ?」 
「どんな味なんですか?」
「俺食ったことねぇーや」 様々の感想が飛び交う中、まだ暖房も配管されていない寒い寒い部屋で宴会は始まった。なぜか回りは紅白の垂れ幕が・・。これは観測隊の伝統のような物で?? 誕生会・壮行会・歓迎会・クリスマス・正月フルコースのパーテイーの時ですら、回りに紅白の垂れ幕をつるすのである。尻の下3000mの厚さの氷からじんじんと伝わってくる底冷えも無視して、まずはやかんで沸かした「月桂冠」で乾杯。続いて身だけの「鮟鱇鍋」の出番である。 久しぶりの鍋料理と温かさと物珍しさにみんな「うまい、うまい」の連発であった。が、まずいのである。これはおいしくありません。身だけの鮟鱇鍋はどうにもピンとこない代物だった。「鮟鱇鍋」はきもや骨や腸や胃袋や皮等がそれぞれ違う食感で口から胃に落ちていってハーモニーが生まれ、満足感が押し寄せてくるのであって、身だけのあんこうはまるで野菜の入っていないカレーライス・白滝だけのすき焼き・スープを入れ忘れたカップラーメンのように妙に「おまぬけ」な代物だった。しかも冷凍乾燥してしまったせいか、身自体もなんとなくばさばさ感が先に立ち、それが昆布と冷凍長ネギと冷凍白菜の中で泳いでいる形状は、なんともなさけないもので「やべー最初の宴会は失敗だわ」と思いつつ、注意を兄ちゃん特製のバラちらしにふりむける作戦に切り替えた。「へーこれ初めて作ったの。うまい!ほんとにうまいわこの寿司の材料、手を加えないでそのまま食ったらもっとうまいワ」ほめ言葉か、皮肉かよくわからない会話の中、みんなの目をかすめて鮟鱇鍋改造大作戦にとりかかった。

コチュジャンと豆板醤をたっぷり入れ、ポン酢も投入。めんつゆで下味をつけ、ごま油を振り入れてやたらどど辛い鍋に改造した。辛さであせだらけになった顔で福田ドクター曰く「さっきのうまかったけれどこっちはもっとうまいワ。へーこんな作り方があるんだ。さすがプロ!! 日本に帰ったらやってみよ」以後彼との間には熱い友情が育つことになる。寒いときに鍋料理と日本人は言うが、平均気温ー57℃ 海抜3800mのここではどうもそれがあてはまらないようである。白身の魚をポン酢で食べる形態はいくら部屋の中が暖かくても、なにか心の隙間が埋まらず、ものたりず、パワーがつかず、キューバのバレーボール男子ナショナルチームに中学生の女子バレーボールチームが挑むような、妙な心細さを覚えた。

中国・韓国・ヨーロッパから、ごま油・唐辛子・オリーブオイル・バター等の強力な外国人助っ人を招聘しなければ「ドーム越冬」 という365試合続く長丁場のペナントレースを乗り切れないことがあきらかとなった。とくれば、次回のパーティーは力もりもり・スタミナ抜群の北海道人大好き鍋「ジンギスカン」でいこうと、一升入り紙パックの「月桂冠」でとけかけた頭の隅で密かに誓った。


川村隊員力作寿司

注意:写真はすべて国立極地研究所に属します。
個人で楽しむ以外(メディア等への掲載)は禁止します。



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