3月に入って始まった地獄の外作業は(ここでは外作業はなんでも地獄)雪洞の天井抜き作業と林隊員の担当する大気球が厳寒期になってもスムーズに打ち上げる為の空間「大気球雪洞」の製作であった。この二つの作業は連動していて、雪洞の屋根を落としつつ一カ所を6m立方以上に広げ、天井をベニヤ板と厚手のシートで覆う単純にして明快な作業内容。
天井をあける長さは約40m弱・・・。 上から見て空洞に達する深さは2m強である。岩盤の様に堅くなっている表層の雪面は手掘りはとても無理なので、ヒアブと呼称されている作業用の雪上車で行われた。中型雪上車50型の運転席キャビン部分だけを残し、後方は様々のユニットがジョイントされる仕組みになっている。この時はヨイトマケマシン、いわゆる地均しをするための太いパイプがピコピコ動く、見ていて妙にユーモラスな機械が使用された。低温で押し固められた雪面は想像以上に堅く、5トンの重量を誇るヒアブといえども、片方のキャタピラーが一瞬浮かび上がるほど南極の自然は人間の力に頑強に抵抗した。それでもようやく小さな先進導抗ともいえる穴があきそれから先は砂糖にむらがる蟻の様に、よってたかって(9名しかいないが)少しずつではあるが、穴は押し広げられていった。ただし機械力を使えるのはここまで。これから先は延々と手作業が続くことになる。もし間違って雪洞に雪上車が転落したら、泣いて頼んでもJAFが現れるわけもなくその下に人でもいようものなら・・・・・・。とにかく手作業である。
ここで大活躍したのが電動式回転鋸 チェーンソーであった。これで切り込みを入れて、スコップでほじればおもしろい様に雪のブロックがどんどん出来てゆく。 めでたし めでたしではなかった。一度ガーっと回転させてちょっと置いておくと、動かない!ー60℃の外気温の為にあっという間に、モーターの駆動部分が凍結してしまう。対策として、一人が作業していない時にも10秒おき位に刃を回し続ける事になった。知らない人が見ればまさに「13日の金曜日」のジェイソンその人である。それでも30分もたつと全体が凍り付き、屋内に持ち込んで解凍しなければならなかった。2週間ほどこの作業が続き、ようやく「大気球雪洞」改め「オレンジ御殿」の落成式を迎えた。上にシートをかぶせると、洞全体がオレンジ色に染まり誰ということもなくこの名前がつけられた。何かが出来たとなれば、早速パーテイーである。
今回は「鴨鍋」である。
北海道のとある湖で捕獲された物を腹だけ抜いて持ち込んだ。凍った剥製みたいなやつを、毛をむしりバーナーで表面をあぶって掃除をして、後はぶつ切りにどんどんと・・・。首は何となく投入するのをためらったが、これも成仏してもらうためと、もしここに原型のまま残していって、冷凍のまま何百万年も保存され、未来の動物学者が「南極に真鴨が生息していた」と発表されても困るので、涙を飲んで鍋に入れた。
大根・里芋・etc の野菜も入れて鴨汁は無事完成。テルモスのポットに熱燗を入れ、宴会開始。乾杯の後は軟弱なウイスキー「サントリーローヤル」を口当たりがいいので、ストレートのままぐびぐびやっていたが、正直記憶、がシャッターが降りるごとくとぎれた。目をさますと、なぜか食堂に寝かされ毛布が掛けられていた。「ウイスキーないぞ持ってこーい!!」とー60℃の中で叫び続けていたそうだがまったく、本当に記憶がないので定かではない。ああ大失敗・・・・・。
−60℃でのよいとまけ
吐息も瞬間冷凍の落成式
注意:写真はすべて国立極地研究所に属します。
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