3月に入ってすぐそこまできている真っ暗やみの冬に備え、緊急かつ重要な仕事に屋外で野積みになっている食糧の整理があった。さぼっていたわけではないが(ほんとはさぼっていた。)基地に持ってきた総量は約10トン。越冬準備で忙しい日々を送る隊員諸氏に、頼んで・だまして・おどかしてなんとか酒類や米の一斗缶等は、前次隊が消費してくれたおかげで空いた空間に(おもに廊下)総員作業で運び込んだが、まだ肉類や魚類等は運んできた時橇から降ろされた状態そのままであった。
言い訳を言うと従来貯蔵しておく食糧は段ボール事雪洞に降ろしていたが、例の落盤で今回は使用不可となり先送りとなっていたもので、これ以上基地内に搬入するのは不可能で、ブリザードが一回でも来れば全部埋まってしまうしさてどうしょう? とみんなで頭を寄せ合って知恵を出し合った結果、少ない人数で無理をして基地内に運び込むより屋外に貯蔵する方法を考える、できれば倉庫でも建てる。ということになった。
しかし資材は乏しいし、さて・・・と言うときある隊員から「イグルーで囲っちゃえば?」とアイデアが。原料は無尽蔵にある雪、これを切り出して建物を。なんと南極観測隊らしいアイデアではないか!即決で実行となった。段ボールを建物側に寄せ、雪面に大まかなラインを引いて設計図とし、後はチェーンソーで、スコップの幅くらいの塊をがんがん切り出してひたすら積み上げていくなんとも原始的にして、ワイルドな作業となった。それでも「窮すれば通ず」一週間位で、「オホーツク流氷祭り」に応募すれば、「優秀作品賞」は確実な立派な建物ができあがった。名前は我が愛妻「みゆきちゃん」が2週間に一回くらい送ってくれていた家族報「かちんこちん新聞」にちなみ「かちんこちんドーム」と命名された。越冬後半には若干のゆがみが来たものの、食糧貯蔵庫の役目を立派に果たしてくれた。
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