「言い出しっぺが大将」の生活が続く3月のある日、細身の体に鋼の魂をやどした大気学者、「林隊員」よりオペレーションの提案が出された。「雪洞の屋根を空ける作業のついでに厳冬期でもゾンデを安全にあげるための大型雪洞を掘りマース・・縦横約5m。」りんさんがここで行う多種多様な観測の内大型気球を高空まで打ち上げるテーマがあった。この気球の中でエアロゾンデと呼称されるブツが一番大型でそして厄介な代物であった。なにせでかい!!!
数キログラムの大型の測定機器「ペイロード」を25km以上も打ち上げるため、必然的に気球もでかくなる。高空に上がるに従ってもっと膨らんでくるそうだが、地上にある時でも直径が3〜4mと十分にでかい代物である。いくら見た目は大きくとも、中身はヘリウムガスが詰まった風船である。当然風には滅茶苦茶弱い。5m/sの風速で打ち上げ中止となっていた。体感からするとほぼ無風状態である。これから冬に向かってそういう日は、どんどん少なくなる事が予想され、又風に加えてここは世界に誇る?超低温の日々が延々と続く。せめて発射準備だけでも屋内でとの発想で今回の「大気球雪洞」の製作と決まった。
さっそく次の日から、観測・設営入り乱れての穴掘り・穴掘り・穴掘り・穴掘りの毎日が始まった。外気温はー50℃〜60℃。石のように固まった雪面を、スコップとチェーンソーでひたすら切って、掘っていった。チェーンソーは例によって、油断をするとすぐ凍り付く。すさまじい環境の中での、無報酬のドカチン作業は連日続き、それでも「継続は力なり」「執念」「こけの一念」なんでもいいが、とうとうある日完成した。巨大な穴にかぶせられたシートから入ってくる太陽光がオレンジ色に染まり、以後ここは「オレンジ御殿」と命名された。
例によって、落成後には「鴨鍋」で「オレンジ御殿完成記念パーテイー」が雪洞温ー57℃の中で開催され、低温のあまり水のように感じられる、軟弱なウイスキー「ロイヤル」をストレートでパッパか放り込み、温かな室内に戻ってきた途端、「ノルマンジー上陸作戦」の様に酔いがどどどどどどっ!と押し寄せてきて0.2秒で気絶した。
「大型気球ヘリウム充填作業」
「大型気球引き出し作業」
注意:写真はすべて国立極地研究所に属します。
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