八方ふさがりで「どうしょうか?」の声も段々小さくなってきつつなってきたある日、福田ドクターがポツリとつぶやいた。「あのさー要は燃料を運んでくればいいんでしょ??そしたらさ橇からドラムを降ろして、転がしてくればいいのじゃないかしら人力で・・・・」下がアスファルトで舗装されていて、平坦な地面ならまだしも、気温はー70℃下は雪面とはいえ、気温が低すぎるため摩擦係数も著しく低くなっている。おまけにドームの雪面は軟雪で表面こそ堅いものの、ちょっと重量があるとずぶりとめり込んでしまう最悪のコンデイションである。
小さな橇で引っ張ってくるとの提案もあったが、人力でとなると思わず引いてしまう環境の中、まさか直接転がしてくるなんて考えもしなかった。「えーうそー絶対できないってそんなこと不可能、インポッシブル・・・」全面否定・到達不能の罵声が飛び交う中ドクターポツリと一言「あのー私トレーニングも兼ねてやって見ますんで・・・・」そしてどうなったか・・・本当にやってしまった。
気温ー75℃、10m/s近くの風が吹く凄まじい環境の中、橇からゴロンとドラム缶を落とし、ずりずりとある時は転がし、ある時は強引に押してとうとう基地まで持ってきてしまった。前例が出きると動き出すのが日本人。次の日から、メンバーは一人増え、二人増え一人で運べないときは一本のドラム缶を二人で押して、日数こそ10日以上費やしたものの、到々3橇分、本数にして36本、2ヶ月分以上が基地内に備蓄されることとなった。
この突如出現したウルトラマン、「福田ドクター」の今思えば英雄的、その頃はあほな思いつきによってドーム越冬隊の危機を乗り越えることができた。
専門家と呼称される人に聞いてみると「低酸素・超低温・強風下で行う作業としては無謀なほど危険なことです。事故がなくて幸運でした。」とコメントが帰ってくるかもしれない。でもドクターが発案して、率先して実行したこの「燃料搬送大作戦」はドームに覆い被さろうとしていた暗雲を見事に振り払ってくれた。羽毛服の下でにじみ出てくる汗と、低酸素の元でこみ上げてくる空咳と共にちょっぴり出ていた、他人への不信感とストレスを見事に地平線の彼方へ吹き払ってくれた。
ドクターのドラム缶転がし
普通の人のドラム缶転がし
注意:写真はすべて国立極地研究所に属します。
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