2000.11.26号 07:00配信


生物学

課題 傷つくDNA


 遺伝子に傷を付ける環境因子はますます増え続けている。その原因は様々論じられようが、その一つに、人間社会の各分野で利益第1主義、目先の利便性とか効果にのみ着目して、多種多様の化学物質が過去長年にわたり大量に使用されてきたが、それらが、大気、水、土壌などに蓄積され、天に唾したように、食物連鎖などを通じて今人間に降りかかり始めてもいるからであろう。
 課題では、それら膨大な因子の中から2つをあげて論をすすめよとのことなので、私は紫外線と食用色素の二つを取り上げることにする。

  紫外線について

 なぜ紫外線を取り上げるのかにかんし、簡単に触れておこう。それは現在地球的規模で人類にのしかかり始めた、オゾンホールの問題に私が大きな関心を持っているからである。 だいたい生物が地上に現れた30数億年前から、紫外線問題は避けて通れない大きな課題であった。原始大気にはバリアーとなるオゾン層がなかったからである。
 では、紫外線は遺伝子にいかなる傷を付けるのか。それは核酸のチミン(T)に作用してチミン二量体(TT)を作ると言うことである。他にシトシン(C)の二量体(CC)また(CT)等を作ることもある。
 太陽光が殺菌作用を持っていることは人々に科学的知識がほとんどなかった古い時代でも、経験的に知られていた。その殺菌作用は紫外線の働きであることは近代になってしられたのであるが、そのメカニズムは長い間解明されていなかった。そしてこのTT、チミンダイマーこそがDNAの正常な複製を妨げ、細胞の増殖を止め、あるいは細胞を殺していたのである。
 太陽光を必要以上に浴びると、皮膚ガンが発生することも知られている。これらの原因もチミンダイマーである。

 食用色素について

 だんだん規制され1時期より許可される色素の数が減ってきており、現在我が国では、11種類が許可されている。これは欧米先進諸国と比較するとかなり多い方である。
 私は以前、モヤシ製造に関わったことがあるが、製品を室から出し袋詰めにする前に、漂白剤水溶液にくぐす。モヤシは始め飴色をしているのだが瞬間に白く変色する。売らんかなの姿勢の強い業者は監査の目をくぐって効果の高い、つまり毒性の強い薬品を使って輝くような白いモヤシを作っていた。これは業者にも問題はあるが、見た目のきれいさに惑わされる消費者により大きな責任がある。そんな訳で、私は食品の着色と言うことに強い関心をもっている。よって毒性因子として食用色素を取り上げた。
 色素のあるものはDNAに結合しやすいがなかでもフラビン系のものはDNAの中にはまりこむ。つまり2本のDNAのテープの間にすっぽりはまり込むことによって、DNAの正常な働きを妨害するのである。この現象をインターカレーションといい、ワクずれ型の突然変異の原因となる。また、色素がDNAと結合した状態のところへ可視光線があたるとDNAに対して大きい傷をあたえることもわかっている。

 修復について

 では紫外線や色素などによって傷つけられたDNAはどのように修復されるのであろうか。
 光回復現象  これは原始的生物がやっていた手段である。光回復のための酵素は常時DNAをパトロールしており、チミンダイマーを見つけるとその部分にくっつく。そしてやはり太陽からの可視光線にダイマーを開裂させ単量化し、元にもどしてしまうという方法である。
切り出し修復(除去修復) これはUVエンドヌクレアーゼによりチミンダイマー部が切り出され、損傷を受けていない正常な鎖を鋳型にして、DNAポリメラーゼにより正しいヌクレオチドがつけられ、最後にDNAリガーゼにより連結される。
 組み替え修復 DNA複製の時に便乗して行われるものでDNA鎖がかなり長い間にわたって切り取られ、その部位にはそれと相補的な鎖を鋳型として正常なヌクレオチドが入れられる。この修復により新しく合成された2本の2重らせんのかたほうは正常であるが片方は傷が残っている。それは除去修復で除かれる。この修復は規模が大きいだけにエラーも付き物である。
 車の排気ガスやタバコの煙に含まれているベンツピレンもそうだが、食用色素によるワクずれも除去修復で除かれる。この除去修復が最も安定的で、正確に行われる。他に緊急的に行われる、でたらめにヌクレオチドが埋められていくというやり方もあるが、助かるものは助かるとしても、多くの細胞に突然変異の危険が増大する場合もある。 
 DNAの修理屋は、相手によって得手不得手があるようだが、生命にとって非常に得難いものである。環境に変異源が増えている現在、われわれは毎日彼らの大活躍によってかろうじて健康を維持しているのである。了 


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