夕飯の支度をしていると、娘がトコトコやって来た。流しに置いた人参を目ざとく見つけ、自分に切らせろと騒ぎ出す。まあいいか、今日は時間に余裕もあるし…。お手伝いする時のユニフォーム、キティちゃんのピンクのエプロンを着せてやると、娘はもうすっかりやる気でいすによじ登る。
「ゆっくりでいいんだよ。」
「こっちの手は丸めてね。猫ちゃんの手だよ。」
トントントン…ちょっと太めの千切りが出来た。娘にはただ包丁を握らせているだけ。後ろから手を添えている私が切ったようなものだけど、彼女はすっかり満足して自分の遊びに戻っていく。
思えば、娘はまだハイハイの頃から台所にやって来て、私の足元に絡みついていた。歩き出した頃は、鍋やボウル、泡立て器が一番のおもちゃだった。そのうちそれでは飽き足らなくて、私がやっている台所仕事そのものに興味を持ちだした。最初に覚えたのは玉ねぎの皮むき。その後、キャベツを細かくちぎったり、パン生地を丸めたり…。出来ることがどんどん増え、今では卵を割ってくれたりもする。もちろんグチャグチャ、目玉焼きには使えないけれど。
私自身は結婚するまで料理というものを全くしなかった。包丁やフライパンと悪戦苦闘する日々を経て、最近ようやく食事を作り出すことの楽しさに気付いたところだ。だからエプロンを身につけ目を輝かせる娘を、少しばかり頼もしく思っている。別に手伝ってもらって楽をしたい訳じゃない。こうやって半分遊びのように台所仕事に触れながら、いろんな事を感じ取ってほしい。さらさらの小麦粉がふっくらしたパンに変わる不思議。だし汁のいい匂い。ごつごつのカボチャの中にほっくり甘い黄色い実が詰まっている意外さ。そして、一つの料理が出来上がるまでには沢山の人の、沢山の手間が掛けられているということ…。
子供たちの偏食が問題になって久しいが、「食」は生きていく上での基本中の基本だと思う。どんな料理を出されても、感謝して楽しく食べられる人になってね…そんな思いを込めながら、今日も娘のエプロンをたたんでいる。
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