1999.12.17号 08:30配信


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保健衛生

課題 食中毒とその予防について



 以下に細菌性食中毒とその予防に関して、それぞれいくつか細菌をあげながら論を進める。中でも最近特に大きな社会問題ともなり話題となった、病原性大腸菌Oー157に関しては、一層詳しく論じてみたい。
 
  1) サルモネラ菌

 桿菌の一種で、牛、馬、豚、鶏を冒し、特にネズミに多い。この細菌がこれらの排泄物、ハエを介して食事と共に人間の体に入り繁殖し、その体内毒素によって中毒症状を起こす。鶏卵、肉類を通じて体内に入る場合が多い。特に問題なのが業務用の「液卵」。ヒビが入って殻付き卵として市場に出せない鶏卵は、卵黄や卵白に分離され液卵として加工食品の原料になっているが、これが細菌感染を起こしやすいのである。
 感染後10から48時間の潜伏期間があり、吐き気、嘔吐、下痢、発熱などの症状がでる。サルモネラ菌による食中毒は1980年代後半から急増。それもサルモネラ菌属のうちエンテリティディスによるものが1989年以来トップを占めている。特に毒性が強いわけではないが食中毒原因の王座を占めている。
 夏に多いが通年、感染の可能性がある。感染防止には、食品の低温保存と加熱処理が必要である。
 
   2) 腸炎ビブリオ菌

 日本における夏期細菌性食中毒の原因菌の主体をなしている。細胞の形がコンマ状した好塩性のグラム陰性かん菌で、長軸の端に1本の鞭毛を有する。培養するとこの極単毛の他に、数本の側毛を持つ。10度c以下では増殖しないが25度cを超えると盛んに増殖する。最適培養条件下ではおよそ8分ごとに分裂増殖する。夏期の6から9月に腸炎ビブリオによる食中毒が集中するのは、この盛んな増殖能力のためである。
 この菌は海産魚介類の消化管、体表面などに付着しており、これら魚介類の生食、あるいは生魚を調理した「まないた」などを介して2次汚染されたその他の食品を摂取することによって発病する。
 本菌が付着した食品を摂取すると10から18時間程度の潜伏期の後に、まず腹痛がおこり、次いで吐き気、嘔吐、下痢、発熱などが現れる。まれに死亡例はあるが、概して軽症。脱水症状が激しいときには輸血を行うほか抗生物質による治療も行われる。
 予防法は、1)加熱調理 2)魚介類の真水による処理 3)冷凍保存等が必要である。 
   
   3) ブドウ球菌

 グラム陽性、直径0.8から1ミクロンの球形の細菌で、通常の培地で容易に培養される。非運動性、芽胞非形成性の通性嫌気性菌で、個体培地上では無差別な空間方向に分裂増殖してブドウの房状の配列を示すことからこの名がある。しかし双球菌状、あるいは短鎖状の配列もとる。
 病原性の弱い表皮ブドウ球菌は人間の皮膚及び粘膜上に常在しているが、病原性の強い黄色ブドウ球菌は、連鎖球菌と並んで化膿の代表的な原因菌であり、食中毒の病原菌ともなる。黄色ブドウ球菌の多くは溶血毒素、食中毒症状を引き起こす腸管毒および種々の酵素あるいは菌体外蛋白質などを生産する。ブドウ球菌エンテロトキシンは熱に安定であるため、ブドウ球菌が汚染、繁殖した食品を加熱しても中毒の予防にはならない。従って1)化膿巣のある人の調理禁止 2)調理後の増菌防止(冷蔵庫) 3)食品取扱者のマスク、帽子、白衣の着用と手指の洗浄消毒、など汚染の防止に注意をはらわなければならない。
 
   4) 病原性大腸菌O-157

 大腸菌は菌体の抗原抗体反応の違いによって173種に分類され、O-157は157番目に認定されたことを意味する。大腸菌の多くは無害だが、このO-157は発症すると腹痛や下痢、血便を起こす。毎年100件程度はO-157による食中毒が厚生省に報告されているが、1996年には5月末の岡山県での集団発生を皮切りに7月末までに全国の感染者は8700人に達し、死者7人を出した。
 ことに大阪、堺市内では小学校の児童を中心に6500人という食中毒としては記録的な大量発生引き起こした。感染力が強く、極微量の細菌でも経口感染して発症する危険がある。2次感染が起こりやすく、食中毒と言うより赤痢、コレラなどと同じ感染症としてとらえるべきだとも言われている。
 強い感染力の上、冷凍状態でも死なず潜伏期間も10日間と長い。溶血性尿毒症症候群を発症すると患者は慢性腎不全や慢性高血圧症に至ることもある。治療法が難しい点は、抗生物質を使用するとO-157が死ぬときにベロ毒素を多数放出し、これが原因で重症に陥ることもあるなど、抗生物質の安易な使用が患者の状態をさらに重篤にさせることである。ただし、一般に大腸菌は熱に弱いから、煮たり焼いたりして熱を十分に加えれば安心である。良く手を洗うことも肝心である。
 厚生省は1996年8月6日O-157など大腸菌による感染症を伝染病予防法の限定適用により伝染病に指定した。ただし従来の伝染病のように患者の隔離や家の消毒は不要であるためO-157感染症は、隔離のいらない感染症ともいわれている。     了




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